NHK出版 学びのきほん 『つまづきやすい日本語』を読みました。
作者は飯間浩明さんです。辞書の編纂に関わっておられる方で、ときどきツイッターでお見かけすることもあるのではないでしょうか?
2年ほど前のことです。ある同人小説書きさんに、誤字誤用が多いというクレームが入り、大きな炎上に発展しました。
これは萎える、これは許容範囲、嫌がらせしたいだけではないか、など、第三者の意見が飛び交います。
問題を提示されると、ジャッジしたくなる性質が人間には備わっていますから、
その同人小説書きさんは、第三者の意見でも、だいぶにお疲れになったことだと思います。
当時の私は「素人の書いた、校閲されてない文章やで? なんでそこまで燃えてるの?」と意外でした。
プロが何校も重ねても、誤字誤用は世に出ているじゃありませんか。
その一件に、一番やわらかく、一番どっしりとした火消しツイートをされたのが飯間さんでした。
ツイートのリンクを張りますので、よかったらツリー欄もご覧ください。
https://twitter.com/IIMA_Hiroaki/status/1266026303183974400?s=20&t=mODUf8i2tOjY9k-U7Buw6Q
氏は、戦後日本で、誤用の指摘が増えたと言っています。
工業的な教育において、白と黒をはっきりと分けることは、効率化のために欠かせませんでしたから、答えはひとつのほうが助かるわけです。
それに校閲さんだって、答えが複数あると対応に困ります。
△△は、ーーと@@という意味がありますが、どちらの意味ですか? このことばは避けませんか? と初稿で促し、
作家が△△をべつのことばに変更しなければ、二校でも△△を使う旨を情報共有する必要がでてきます。
めんどうくさいですよね。
ひとつの単語が、複数の意味をもつことは、ままあり、ことばは永遠の過渡期にあると考えています。
例えばですが、よくやり玉に挙げられる「おもむろに」については、デジタル大辞泉につぎのように記載されています。
おもむろに
[副]落ち着いて、ゆっくりと行動するさま。「―立ち上がる」「―口を開く」
[補説]文化庁が発表した平成26年度「国語に関する世論調査」では、本来の意味とされる「ゆっくりと」で使う人が44.5パーセント、
本来の意味ではない「不意に」で使う人が40.8パーセントという結果が出ている。
(20220809参照)
なんのきっかけで「不意に」の意味が生まれたのか、定かではありませんが、現に「不意に」の意味のことばであると、認識されているひとが多いです。
使う側としたら、困る用語ですよね。
不意に立ち上がる、なのか、ゆっくりと立ち上がる、なのかで、ずいぶん印象が異なります。
わたしの友人は、目立って過渡期にある単語を、なるべく使用しないという目標を持っていました。
文章心得帖の鶴見さんも、平易な文章がよい文章だと語られていましたし、解釈のブレを防ぐために「使わない」が、最善の対策かもしれません。
……まあ、わたしはずぼらのうっかり屋なので、たぶん使うのですけど。
飯間さんの本を読んでいると、日本語の変化に対応しようという気持ちへゆったりと導かれていくような心地がしました。
随所に、飯間さんの誠実なお人柄が出ているからに違いありません。
推敲や校閲作業で、憂鬱になってきたら、ことばへの思考をメンテナンスしてくれる一冊です。
薄くて、字も大きくて読みやすいです。図書館ででも、出会ったら是非。
Comentarios